こんにちは。Dr.パパスです。
子育てしていると、純粋な子どもの感情や成長に日々癒やしを貰っていることも多いと思います。
一方で子育ては楽しい面ばかりではないことも事実でストレスに感じている方がいるのも確か。
実際に子どもと一緒に過ごす時間は、親のメンタルにどのような影響を与えるのでしょうか?
今回は「子どもとの同居が親のうつ病の発症に与える影響」に関する論文を紹介します。
特にパパさん達には励みになる内容になっていますので是非最後までお読み下さい。
●日本において、25年かけて行われた研究論文
●子どもとの同居の有無を調査し、25年後にうつ病の発症率を調査
●子どもと同居していた男親はうつ病の発症が少なかった
今回紹介した論文はコチラ。Kento Ogawa et al. Translation Psychiatry. 2022.
目次
結論:子どもと同居する男親はうつ病が少ない

生活環境がうつ病に与える影響を検討
うつ病患者は、日本だけでなく世界レベルで増えています。
今回の研究チームは、昔と比較した際の家族構成の変化に着目しています。
出生率が右肩下がりの日本では、昔と比較して子どもがいない家庭も珍しくありません。
また子どもがいても寮生活で別居という家庭もありますよね。
以前の研究において配偶者がいる男性とそうでない男性では、一人暮らしの男性の方がうつ病が多いというものがあります。
欧米圏で行われた研究の多く集めた解析では、一人暮らしはうつ病のリスク因子になっています。
一人暮らしと同様に、子どもに関する家庭環境の変化がうつ病を増やしているのではないか?
という仮説のもと研究が行われました。
男親は子どもと同居していると将来のうつ病発症が少ない
40〜59歳の男女1254人にアンケート調査を行い、25年後に精神科の専門医によってうつ病か否かを判定しました。
その結果、子どもと同居していた親のうつ病の発症は同居してなかった親より少なかったことがわかりました。
親全体の比較および男親における比較では、有意な差を認めていましたが、意外なことに女親における比較では有意な差を認めませんでした。
今回の研究では配偶者との同居や親との同居による影響もみています。
しかしこちらは男女ともにうつ病の発症に有意な差を認めませんでした。
この結果から、誰かと一緒に同居する事より、子どもと同居する事が重要である可能性があります。

子どもの癒やし効果はうつを減らしているのかもしれませんね
研究方法

25年かけた日本発の研究
研究の流れは
1990年に長野県 佐久市在住の40〜59歳を対象に生活環境をアンケート調査
簡易スクリーニング後に、公認の精神科医が一人一人を診断
子どもとの同居の有無によって分けて、うつ病に影響する因子を調整して比較
といった感じです。
対象者は1254人と比較的多いです。
しかし、元のデータとなったのは12000人です。
死亡や転居、アンケート無回答などで脱落したのが4000人程度います。
残った8000人からメンタルヘルスのアンケートに解答したのは1300人でした。
さらにうつ病の既往がある人やアンケートに不備があった人を除きました。
そのため、かなり選別された人が対象になっている印象です。
うつ病は専門医が診断
通常こういったメンタルヘルスの研究では、抑うつ傾向をアンケートで調査することが多いです。
しかし今回の研究では、最後の診断を公認の精神科医が行っています。
そのためうつ病の診断精度はかなり高いと思われます。
今回の研究のように長期に追跡をすると、当初59歳だったか方も追跡後は85歳です。
うつ病の症状と認知症の症状は一部が似ているため、結果をしっかり精神科医が診断している点は精度を上げる点で非常に有効ですよね。
家族構成以外にうつ病の発症に影響することは多くあります。
糖尿病、脳卒中、心筋梗塞の有無、喫煙状況、飲酒頻度、睡眠時間、職業なども調査しています。
これらがうつ病発症にもたらす影響を統計学的に調整しています。
①「ひとり暮らし」vs.「配偶者と同居」
②「子どもと同居」vs.「子どもと同居していない」
③「親と同居」vs.「親と同居していない」
上記組み合わせで、うつ病の発症を比較しました。
研究結果

対象の背景は、子どもや配偶者との同居の有無によってあまり変わらない
こういった対象をランダム化で分けてない研究では、群によって背景が違う事が一般的です。
例えば、子どもと同居している男親の方が、そうでない男親より喫煙率が低い。
といった具合です。
しかし今回調査した、喫煙や飲酒習慣、睡眠時間、職業などのうつ病に影響するような背景因子は各群間で大きな違いは認めませんでした(例外としてひとり暮らしの喫煙率だけ明らかに高い)。
なので純粋な同居の有無による比較をできている可能性があります。
ただ一方で各群の人数にかなり差がついていました。
一人暮らし | 配偶者と同居 | 子どもと非同居 | 子どもと同居 | 親と非同居 | 親と同居 | |
人数(人) | 37 | 492 | 92 | 432 | 265 | 264 |
特に配偶者との同居の有無に関してはかなり人数の差がありました。
配偶者や親との同居とうつ病との発症には関連なし
ひとり暮らしはうつ病のリスクになるというのは、研究結果からも明らかになっています。
今回の研究では子どもだけでなく、配偶者や親との同居が与える影響も検討されています。
その結果、配偶者との同居、親との同居ともにうつ病の発症との関連は認めませんでした。
親との同居に関しては何となく理解ができますね。
一方配偶者との同居に関しては、先行研究と結果が異なります。
これは上でも記載したように比較群間の人数の違いが大きいと思います。
そのため、今回の研究では配偶者との同居の有無による影響は分からないというのが正しい解釈でしょうか。
子どもと同居している親全体および男親のうつ病発症は少なかった
今回紹介したいメインの結果は、子どもとの同居の有無によるうつ病の発症率です。
子どもと同居なし | 子どもと同居あり | |
男性 | 1 | 0.38 (0.15-0.92) |
女性 | 1 | 0.58 (0.31-1.07) |
全体 | 1 | 0.53 (0.33-0.87) |
注意していただきたいのは、上記結果はリスク比ではなくオッズ比です。
オッズ比は色々な比較をした時に、その差同士を比較する際に用いられます。
そのため、今回の研究では配偶者や親との同居と比較して、子どもとの同居の方がうつ病の発症が少なくなっていたということが分かるに過ぎません。
男性のうつ病のリスクが62%減る、というわけではないのでご注意ください。
とは言え、男性および全体において子どもと同居している方はうつ病の発症が少ない、のは確かなようです。
私なりの結論

子どもとのつながりは、うつのリスクを減らす
以前の研究から人とのつながりはうつ病を減らす可能性が指摘されています。
今回の研究では、やや群間に人数の差があるものの子どもと同居していることが、親のうつ病発症リスクの低下と関連していることが分かりました。
特に男親でその効果が明らかという結果でしたが、女親で有意な差がつかなかったのは群間の人数差によるものと思われます。
1990年に収集したデータを用いているのでどうしようもないですが、群間の人数を合わせた研究であれば、女親も合わせて有意な差が得られたのではないかと思います。
冒頭で述べたように子育ては楽しいことばかりではありませんが、親が子どもから与えて貰っていることは多くあると日々感じています。
今回のデータは子育てに対するポジティブなデータとして受け取って良いのではないでしょうか。

日々、子どもの存在に感謝
ちなみに今回の論文の考察では、もっと現実的なことが書かれていました。
日本人の多くが高齢になっても自宅での生活を希望している。
そのためには子どもの社会的支援を求めている。
高齢者の多くは子どもの同居や近居を希望している。
というデータから、子どもとの同居が親のメンタルに良い影響を与えたと考えられています。
客観的なデータからは確かにそういう現実的な面が影響している可能性の方が高そうです。
選別された人が対象になっている点は注意
研究方法においても述べましたが、今回の研究対象はかなり選別されています。
長野県佐久市の40〜59歳がまず対象で、そこからしっかりと追跡できている人が選ばれています。
さらにアンケートもちゃんと答えてくれている人が対象です。
当初12000人だったのが最終的に1250人になっているので、人為的ではないのでかなりセレクションがかけられています。
なので一般的な集団が対象というにはちょっと厳しいかな、というのが感想です。
まとめ
いかがでしたか?
今回は日本人を対象に行った「子供との同居がうつ病の発症に与える影響」に関して検討した研究論文を紹介しました。
●長野県佐久市の45〜59歳に生活環境をアンケート調査
●25年後にうつ病の有無をスクリーニング+精神科医によってチェック
●子どもの同居の有無によって分けて比較
●子どもと同居している男親は、同居しない男親よりうつ病が少なかった
●女親に関しても人数が揃えば同様の結果だった可能性あり
●個人的には子育てに対するポジティブなデータと考える
今回の結果を真に受けるとパパほど、子どもとの同居に感謝しないといけませんね。
ママにとっては、パパが子育てに参加するメリットの一つとして紹介してもいいかもしれません。
(やや拡大解釈ですが)
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
明日からの子育ての参考にしていただけると嬉しいです。